9世紀初頭、ある夜、羊飼いが星に導かれてキリストの弟子ヤコブの遺骨が納められていた洞窟を発見したのが始まりだった。 それは、最初は小さな祠みたいなものだったのかもしれない。 やがて、その場所に大聖堂が建てられ、キリスト教徒達は王侯貴族から平民に至るまでこぞってスペイン北西部のサンティアゴ・デ ・コンポステーラを目指すようになった。 12世紀に最盛期を迎えたサンティアゴ巡礼ブームはその後、紆余曲折あって、一旦は下火になったものの、20世紀終わりに、再び脚光を浴び始め、今では世界中からたくさんの巡礼者達がこの地を目指して歩くようになった。 全ての人に開かれ、信仰の種類も問われないサンティアゴ巡礼路は、バックパックを背負った人々の国際交流の場にもなっている。 現在の巡礼は決して命がけの旅ではないし、人々の信仰心も昔のように鮮明なものではなくなってしまった。 それでも、大きな荷物を背負って聖地を目指す彼らの姿を写真におさめる時、それが彼らの人生そのものに思える時がある。 朝日を背に受けながら歩き始め、やがて夕日が沈む西の地へ辿り着く「フランス人の道」。 それこそ、人間が生まれてから死を迎えるまでの長い旅路を暗示しているからだろう。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 近藤 佳奈 1973年三重県生まれ。埼玉県在住。美術学校卒業後、画家として活動。 2002年に創作活動を停止、その後、産業機器メーカーにてOAオペレータとして14年間勤務。 15年、ミラーレスカメラの購入をきっかけに写真を撮り始め、16年よりGARLOCHIのオフィシャルカメラマンとして本格的に活動を開始。 18年、19年、21年にスペインのサンティアゴ巡礼路“フランス人の道”と、聖地サンティアゴから更に西の海岸へ向かって歩く“フィステーラ、ムシアへの道”、合計約900キロを3回に分けて歩き進みながら、撮影を続ける。 ◆写真展情報◆ 2022年1月5日(水)〜17(月) ※火曜休館 最終日は14時までFUJI FILM Imaging Plaza 大阪ギャラリー 近藤佳奈写真展「ULTREIA」サンティアゴ巡礼2018〜2021
世田谷の経堂は、住宅地であり、学生の多い町でもある。農大通り商店街は人通りも多く飲食店の出店も多い。そんな町に一軒のスペインバルができて7年になる。名前は「トロンパ」。スペイン語のスラングで「よっぱらい」を意味するそうだ。 店内は、カウンターのみの立ち呑みスタイル。渡西した際、すっかりスペインバルに魅せられた店主の野村さん、自分の店で「スペインバルの魂」を再現したかったのだという。隣り合わせた客同士、ちょっとしたきっかけで声をかけやすいし、偶然聞こえてきた話に、応えることもできる。新しい出会いが生まれ、人と人がつながる。本来バルとは、人が集まり作る「場所」なのだろう。 もちろん、必要な人のために椅子の用意はあるのとのことなので、店主にこっそり声かけを。 料理はスペインバルで見かける、スタンダードなものばかり。野村さんは35歳で広告の世界から転職、都内のスペインレストランで修行し、スペインでは大好きなバルを食べ歩いたという。 「提供する料理の味がブレないよう、たまにスペインに行っては微調整している」という言葉通り、その味は私たちが思い描くスペインの味だ。どのタパスもおいしいが、一番人気は「マッシュルームの鉄板焼き」だそう。 人とのつながりを作るための工夫として、野村さんが実践していることに「メルマガ」がある。ホームページから会員登録をすると、店主のメルマガが送られてくる他、タパスのサービスなどを受けることができる、お楽しみ付きだ。このメルマガ、なかなかに読み応えがある。テーマは店主の日常から、スペインの話、経堂の町の話まで多種多彩。外出自体、機会が減らされているコロナ禍にあっては特に、そんな繋がりがありがたいと感じる。 店内には「ようこそ!パスポートの要らない東京のスペインへ」のキャッチフレーズが。言葉通り、経堂に「スペイン」を感じに出掛けてはいかがだろうか。
本誌読者にもファンの多い「小笠原伯爵邸」の登場である。昭和2年に小笠原長幹伯爵の本邸として建築された、スパニッシュ様式の屋敷を、東京都から借り受ける形で、現在のオーナーが修復、レストランとしてオープンした。 リクエストをすれば、優雅な屋敷の中を案内してもらうことができる。現存するエントランスやステンドグラスなどから当時の佇まいを想像するのも楽しいが、修復のための努力と苦労は、運営サイドの情熱そのものである。 例えばシガールームは、装飾や大理石の柱と床は当時のままに、収集した写真を元に、天井の色彩を配し、扉はスペインから取り寄せたという。また庭の大きなオリーブの木は後から植えられたものだが、邸の景観と調和している。 そんな邸内でいただく料理は、もちろんちょっと特別な日のためのスペイン料理である。料理長はゴンサロ・アルバレスさん。バルセロナの出身で、日本の食材を織り交ぜ、新しくて繊細、しかしながら時に大胆で、我々に楽しい食事の時間を提供してくれる。 お話を伺うと「日本の食材は大好き。素晴らしい。」とのことで、メニューには私達のよく知る季節の食材が登場する。が、彼らはいつの間にか渡西し、スペインの伝統や日常食す暖かな料理たちに触れ、さらには新たな色彩と鋭敏で豊かな味わいを獲得して、洗練された一皿となって帰ってくるのである。 例をあげれば「下仁田ネギのカルソッツロメスコソース」、「冬野菜と魚介のセビーチェ」など枚挙にいとまがない。ぜひその目で、口で、彼の繊細で鋭敏、しかしながら暖かな料理を味わっていただきたい。 さて、飲み物は、小笠原伯爵邸オリジナルのリオハ産のワインを選ぶも良し、屈指の量を誇る地下のワインセラーから特別な1本を選ぶのもまた良しである。 これまでも小笠原伯爵邸では様々なイベントが企画されてきたが、こちらも継続企画中である。ホームページなどで随時チェックしたい。また、バー&カフェも開設され、タパスやケーキなど新たな楽しみ方も加わった。 自分のために、家族や友人とともに、特別なひと時を過ごすために、訪れるのはいかがだろう。記憶に残る時間となること請け合いである。
bubó BARCELONA(ブボ・バルセロナ)は、2005年、ガウディやダリなど、革新的な芸術家を排出した街「バルセロナ」に誕生する。目指すのは「宝石のように眩しいパティスリーを創ること」。 クオリティとデザイン、この二本の柱を担うのは、パティシエでありショコラティエでもあるキラム・ウル・ハッサン氏と、アートディレクターのエルネスト・アメラー氏だ。ハッサン氏はパティシエチームを率い、美しいだけでない、味と食感が秀逸なペイストリーを創作する。アメラー氏はチョコレートの彫刻やケーキのデコレーションなどを手掛け、「ブレイク・マイ・ハート」などユニークな作品は、bubó の特徴を表現しているといえるだろう。 そんな彼らの作品が日本で楽しめる。甘いものが大好きな日本人に「デザインと地中海テイストの融合した作品を、視覚と味覚の両方で楽しんでもらいたい」という。 チョコレートは空輸、ケーキはバルセロナのパティシエチーム監修の元、日本のパティシエチームが再現する。グラフィックにもこだわり、黒を基調とした店内は、高級パティシエのイメージだが「いったん店に足を踏み込んだらそこはスペイン、親しみを感じていただけるよう配慮し、心から美味しいスイーツを楽しんでいただきたいと思っています。」と商品企画部の行木さん。チョコレートは全ての種類が試食可能。目的がギフトでも、選ぶ過程は自分も楽しい。ついつい自分用にもとチョイスが増える。 2階のカフェでは、ケーキはもちろん、人気のケーキプレートもいただける。コーヒーやアイスアールグレーティーなどは2杯目から無料というのもありがたい。 コロナ対策は、検温・消毒、座席間隔も開けて対応、メニューはQRコードから携帯電話で見ることができる。ちょっと肩の力を抜いて、ゆったりとスイーツとコーヒーをいただく至福の時である。 表参道に気軽に立ち寄れない方は、オンラインショップを覗いてみては?一番人気のチョコフルーツや定番のラインナップが購入可能。また、季節の商品や新商品も展開される予定である。 ちょっぴり贅沢をして、日本のチョコレートとはちょっと違う、スペイン、バルセロナの味を試してみてはいかがだろう。
最近、グルメ番組などで紹介され、若者にも話題の街、「赤羽」。スペインバル Circo(シルコ)は賑わいを見せる1番街から、少し奥まった静かな場所にある。ス ペインの国旗と赤い扉、キラキラした明かりが見えたら、そこがCirco だ。 「Circo」とは「サーカス」の意味。「昔のサーカスって、電飾がキラキラして、ピエロがいて、全くの別世界。そこに行くのが楽しみでしたよね。そんなワクワク感を大切にしたい、この店に集う人たちが、楽しんで、疲れもふっ飛んで帰ってもらえたら、と思ってつけました。」と、店長であり、シェフでもある溝口さんは語る。 店内は4人席のテーブルが4つとカウンター席。こじんまりとしているが、木のぬくもりを感じるインテリア。白く塗られた木壁に描かれた、少し懐かしい雰囲気の、サーカスのイラストが印象的だ。 「子供連れのお母さんにも来ていただきたくて、椅子の高さも低めにしたんです。」 と溝口さん。子供連れで出かけられるレストランは、まだ少ない。しっかりしたものを 「食べる楽しみ」を味わってもらいたい、ならば、自分たちでそんな店を作ってしまおう、と奥様と相談してコンセプトを創ったのだそうだ。 子供連れはもちろんOK。ママ会や貸切で利用されることも多いという。また、夜のCircoの灯りは柔らかく、居心地が良い。ただの酒飲みにも優しいのである。 料理も、そんなシェフの気持ちが反映されてか、それぞれがしっかりとして、暖かみが感じられるものばかり。特に大きなホワイトマッシュルームの料理はおすすめで、その大きさを見せていただき、びっくり。「このマッシュルーム、「大きい!」という点でもワクワクする感じがするでしょう?」 とのことだが、甘みがあって美味しくて2度びっくり、のキノコだった。その他、人気のパエリヤも旨味が凝縮、誰もが美味しいと感じるであろう優しい味だ。 「ご馳走を年に1回、かしこまって食べる店ではなく、週に3回通ってもらえる店でありたい。」というCirco、地元に愛され、根付いた存在になるのが目標だという。 その後の夢は?との問いに、「同じ規模の、地元に根ざした店を3件くらい持つ」のが夢と語る溝口さん、こんな店が自分の町にもあれば良いなぁ、と思う夜であった。