★Comentario タブラオの前身カフェ・カンタンテが流行した19世紀末から20世紀初頭、フラメンコ界にも新しい波が訪れた。ひとつは、ヒターノ(ジプシー)の専売特許だった市場に、非ヒターノの人びとが次つぎ参入したこと。もうひとつは、新たなレパートリーの広がりだ。その流行りに乗って時代の華となったのが、ガロティンだった。ユニークな曲種名の由来は今ひとつはっきりしない。農作業に使われた棍棒(garrote)の縮小辞で、聖ヨハネ祭に使われる拍子木がgarrotínと呼ばれたという説は、ガロティンのリフレインに“vera de San Juan(聖ヨハネ様のそばで)”というフレーズが多用されていることからも説得力がある。しかし実際踊りにその拍子木が使われるわけではない。由来は謎に包まれたままだ。 曲調は明るく野趣に富んだ4拍子。伸びやかな雰囲気は、どこかバグパイプの音色をも思わせる。ケルトの伝統を持つガリシア地方にルーツを持つといわれるのも、その辺りから来ているのだろう。一方、カタルーニャのヒターノが広めたとの説もある。それはコラムで述べるように、バルセロナ出身のカルメン・アマジャの演唱によるところが大きいだろう。いずれにせよ、チャーミングな味わいをたたえた曲種であることは間違いない。
★Comentario 「またタンゴ?」という声がどこかから聞こえてきそうだ。もちろん、カンテ・フラメンコには数多くの曲種がある。しかし奇しくも筆者は第2回、すなわちタンゴの回でこう書いている。「ひとくちにタンゴ・フラメンコと言っても、その種類は存外に多い。」それを理由にするわけではないが、前回取り上げた「山」タンゴの代表をラ・レポンパのタンゴとするなら、今回のそれは「街」タンゴの代表選手といったところだろうか。市井に生きる人びとの生活、人生模様、生きざまを写しとったこのタンゴは、通称をタンゴ・デ・トリアーナ、またはタンゴ・デル・ティティという。かつてヒターノ地区として知られたトリアーナ、そこの随一のエンターテイナーとして活躍したエル・ティティが軽妙に唄い踊って有名にしたことから、この名前がついた。幸いエル・ティティが仲間の盛大な歓声を浴びながら粋にユーモラスに、時に開放的なエロティシズムを忍ばせて唄い踊るさまは映像にも残されている。踊りのかたには、これはタンゴ・デ・マラガのあとにつくタンゴとしてお馴染みではないだろうか。ただ“Triana, Triana”で始まる有名なタンゴをタンゴ・デ・トリアーナと勘違いしないようにお気をつけいただきたい。そちらはニーニャ・デ・ロス・ペイネスが唄ったタンゴで、タンゴ・ポプラールまたはタンゴ・デ・パストーラと呼ばれるもので、後に述べるように和音進行も異なるのでご注意を。