【濱田吾愛の『Fuente del Cante』~カンテの泉~】 第12回 タンゴ・デ・マラガ

2025.01.7

★Comentario
 マラガで最も由緒あるペーニャ・フアン・ブレバの2階には、フラメンコの歴史にちなむさまざまなものが展示されている。中で目を惹くのが、2挺のギターだ。1挺はピカピカのボディ、弦もきっちり揃った美しいギター。もう1挺は、かなりくたびれたボディに弦も半分どこかへ行ったような、相当の年季を感じさせるギター。前者がペーニャの名前にもなっているフアン・ブレバのギター、後者がラファエル・フローレス・ニエト、通称“エル・ピジャージョ”のものだ。それでも人びとはその古ぼけたギターを大切にし、持ち主を偲ぶ。そのギターを提げて街をぶらつき、歌をうたったヒターノ“エル・ピジャージョ”を。彼の歌は“カンテス・デル・ピジャージョ”と呼ばれ、それが時を経て、タンゴ・デ・マラガの原型となった。
 元々のカンテス・デル・ピジャージョは、割と速いテンポで語るように歌われる。マラガきってのヒターノ街ペルチェルに生まれ、若い頃から放浪生活をいとなんでいたエル・ピジャージョが、一旗揚げようと赴いた中米キューバ。そこで耳にしたグアヒーラを下敷きにした、とも言われている。ハバナとマラガ、ふたつの港町をいわば歌で結んだエル・ピジャージョ。タンゴ・デ・マラガの根底には、彼の魂が軽やかに生きている。