【濱田吾愛の『Fuente del Cante』~カンテの泉~】 第10回 ティエント

2024.07.1

★Comentario
  鶏が先か、卵が先か。
 タンゴとティエントの関係を考えるとき、人がまずぶつかるのはこの問いではないだろうか。なにしろこの両者は、基本的に同じ2拍子系、詩の形も同じ8音節4または3行詩。しかも踊りの場合、ティエントはよほどの例外を除いてタンゴになって終わる。しかしちょっと歴史をひもといてみれば、その答えは簡単に見つかる。19世紀まで、スペイン生粋の歌芝居サルスエラやオペラに、タンゴは登場してもティエントは出てこない。たとえそのタンゴが往々にして、こんにちで言うハバネラに当たるものであったとしても。
 ただ見過ごしにできないのは、タンゴであれハバネラであれ、単なる2拍子を越えたリズムが内包されていること。スペイン人が先祖から受け継いできた2拍3連のリズムがそこには息づいている。具体的には6/8拍子が感じ取れるのだ。2/4拍子の中の6/8拍子となれば、思い出すリズムがある。そう、タンゴの仲間でいちばん軽やかな調子を持つタンギージョ。この拍感をカディスの大名人エンリケ・エル・メジーソが活用して19世紀末に生み出したのが、同じタンゴの仲間でいちばん重たいティエントと言われるところが、何ともおもしろい。