【濱田吾愛の『Fuente del Cante』~カンテの泉~】 第9回 シギリージャ

2024.04.1

★Comentario
 数ある12拍子の曲種の中で最も重い調子を持つとされ、またソレア(孤独)、アレグリアス(喜び)などと違って、その名前も何やら神秘的なことから、いろいろ謎めいたものを感じさせるのが、このシギリージャだ。近年では、セギディージャ(あるいはセギリージャ)という呼び方もスタンダードになりつつあるが、逆にそうなると、そこにはひとつの可能性が見えてくる。スペイン全土に流行をみた、同名の3拍子の舞曲。そう、セビジャーナスのもととなったセギディージャスだ。しかしこのふたつの曲種を関連づけるのは難しい。なぜなら、リズムも詩の形も展開も、すべてが違うからだ。これはもはや、同姓同名の他人と見なすべき存在であろう。
 こちらのシギリージャは、フラメンコの草分け時代にエル・プラネータ、エル・フィージョという名人たちによって無伴奏またはギターを伴って歌われ、やがて20世紀半ばに踊りを伴い、今なお“フラメンコの父”とも言うべき地位をしめているのだから。4行詩でありながら、6・6・11・6という独特な音節を持つ詩の形、同じ無伴奏時代からのレパートリーであるマルティネーテを彷彿させる「1ィ、2ィ、3ァーン、4ーィ、5ォ」という変則5拍子にも取れるリズム、どこを取っても唯一無二の存在であるシギリージャ。その謎は21世紀になろうと解明できない。