【濱田吾愛の『Fuente del Cante』~カンテの泉~】第4回 タンゴ(其の二)

2023.01.6

★Comentario
 「またタンゴ?」という声がどこかから聞こえてきそうだ。もちろん、カンテ・フラメンコには数多くの曲種がある。しかし奇しくも筆者は第2回、すなわちタンゴの回でこう書いている。「ひとくちにタンゴ・フラメンコと言っても、その種類は存外に多い。」それを理由にするわけではないが、前回取り上げた「山」タンゴの代表をラ・レポンパのタンゴとするなら、今回のそれは「街」タンゴの代表選手といったところだろうか。市井に生きる人びとの生活、人生模様、生きざまを写しとったこのタンゴは、通称をタンゴ・デ・トリアーナ、またはタンゴ・デル・ティティという。かつてヒターノ地区として知られたトリアーナ、そこの随一のエンターテイナーとして活躍したエル・ティティが軽妙に唄い踊って有名にしたことから、この名前がついた。幸いエル・ティティが仲間の盛大な歓声を浴びながら粋にユーモラスに、時に開放的なエロティシズムを忍ばせて唄い踊るさまは映像にも残されている。
踊りのかたには、これはタンゴ・デ・マラガのあとにつくタンゴとしてお馴染みではないだろうか。ただ“Triana, Triana”で始まる有名なタンゴをタンゴ・デ・トリアーナと勘違いしないようにお気をつけいただきたい。そちらはニーニャ・デ・ロス・ペイネスが唄ったタンゴで、タンゴ・ポプラールまたはタンゴ・デ・パストーラと呼ばれるもので、後に述べるように和音進行も異なるのでご注意を。