【濱田吾愛の『Fuente del Cante』~カンテの泉~】 第13回 グアヒーラ

2025.04.1

★Comentario
  ひなたの香りがするような、明るいメロディー。いかにもラテン的で伸びやかなリズム。アバニコ(扇子)を駆使した華のある踊り。こうした要素だけを並べてみると、グアヒーラという曲種は一見、とても平和に思える。実際今回取り上げるように、グアヒーラの歌詞には往々にして、安楽で、不安などはどこかに置いてきたようなものが目立つ。いわば、功成り名遂げて、夢の暮らしを手に入れた人の歌、とでも言おうか。そうしたイメージでグアヒーラをとらえている人は決して少なくないのではないだろうか。
 けれど、このレトラを見てほしい。
 「とある静かな夜/聞こえるは/血と砂にまみれた/哀れな負傷兵のかすかな呻き/寝台の空きはなく/赤十字の助けもない/血の流れゆくさまに/勇敢な兵士は悲嘆にくれて/死が迫りくるなか/助けてくれる者もない」
 まるでソレアかシギリージャのような重苦しさだが、これはれっきとしたグアヒーラの歌詞なのだ。歌ったのは名人カジェターノ・ムリエルことニーニョ・デ・カブラ。そう、実はグアヒーラには、19世紀後半植民地からの独立を目指したキューバとそれを阻もうとする宗守国スペインとの闘いの歴史も刻まれているのだ。功名を求めてキューバに赴いた義勇兵たちの多くが、祖国から離れた土地で命を落とした。平和の底には、いつもそこに至る犠牲がある。